ATF電波塔 Final Edition

かつて曾孫系ニュースサイト管理人だったおじさんの、最後の住処

オナニスティック

―煙草の灰が落ちた。
男と猫が対峙して、数分。
ふたりは全く動かない。何も語らない。時間が止まったかのように。
男の深く被ったニットキャップからぎりぎり見えるその目つきは、
果てしなく遠くを見つめたまま、凍りついたように動かない。
黒いスーツはその帽子とあまりにも不釣合いだったが、彼を形容するにおいて
その組み合わせは、それ以上ないコーディネートだった。
猫は問う。

「―お前は、未だ見つけ出せんのか」

男は遠くを見つめたまま、

「あァ、そうだ。俺は何も見つけらんねえ。怠惰が、俺を押し殺すんだよ」

スーツの内ポケットから長い金属製のものを取り出した。
45.のマガジン。ゆっくりと、右手の拳銃に装填する。

「伝説の化け猫、か。お前も暫く見ないうちに偉くなったもんだ」

猫は僅かに身構える。が、やや砕けた口調で

「―また、同じ過ちを繰り返すか。貴様は、相変わらず」

「まァ、いいさ。今度こそ決着だ。『化物』同士、精一杯やろうぜ?」

撃鉄が上がる。

戦いの火蓋は、そんな小さな音で落とされた。